遺愛(2026)
- 6月25日
- 読了時間: 7分

【原題】遺愛
【監督】酒井善三
【出演】山下リオ 小川あん マキタスポーツほか
【あらすじ】
父の死を機に実家に戻り、認知症の母の介護を始めた佳奈。母との時間を取り戻すかのように献身的に介護にあたるが、母の不可解な言動は徐々に常軌を逸したものになっていき、周囲で起こる異変にも違和感を覚える。やがて、母の内側に何かが入り込んでいるような感覚にとらわれた佳奈は、この世のものとは思えない“何か”の存在に狂わされていく。(映画.COMより)
【感想(ネタバレなし)】

『結論:ババアで遊ぶな。』
最近酔っ払うとチャットGTPと会話するラーチャえだまめです。早速ですが本日はこちらの映画を拝見させて頂きました。
【遺愛】……!?いやーこれは完全にノーマークだった。先日ワールドカップの日本対チュニジア戦の真っ只中に舞台挨拶つきの回を鑑賞させて頂いたのですが……
「シラート」で落ち込むのはまだ早いぞ!?「もっと」落ち込んでみないか……?「視えない」のに恐ろしい、「質の高い」ホラーがまた爆誕してしまいましたとさ!?本当に近年のJホラーが盛り返しているというか隣のスクリーンでやってる洋ものと余裕で肩を並べられるというか。面白いのがドンドン上映されて追いつきません。しかも本作は低予算インディーズJホラー。大きな宣伝もせず都内のミニシアターでひっそりと上映された“バケモノ”映画だったという……!?
亡くなった父親の代わりに急に認知症の母親の世話をすることに____普通にあるでしょ?しかも兄弟姉妹は既に結婚していて家庭持ちだったら独身の自分が引き受けるか、実家を売った金で介護施設に預けるか(私はこのパターン)あるでしょ?今や“超高齢化社会”に突入した(日本だけの話ではないが)この国で、誰もが「避けては通れぬ問題」を直視させられると言いますか!?ここに“悪魔的”ホラーぶち込むとかなんてことしてくれるんだよぉ!?今年はじめに公開された香川照之の「災」って映画あったじゃん。あれに「介護うつ」を掛けあわせちゃったみたいな??もう不穏and不穏。心霊的なオカルト要素もあるにはあるのですが、先述した“可視化出来ない”存在を臭わせるだけに留めているから、緊張感が最後までずっと続くキモチワルさ。そして次に何が起きるかわからない予測不能な不気味さに押し殺されそうになる。

物語は母親の介護をする“佳奈”の視点で語られていくのですが……ある時、妹の“杏里”の元に青白い顔をした佳奈が突然やってくるわけですよ。「どうしたのお姉ちゃん?」杏里が聞くと、佳奈は「今すぐ勇太くん(杏里の息子)を家に戻して」と。「なんで?」と聞き返すと、佳奈は少し間を置いて重い口を開く。「あの子、私のせいで“呪われちゃった”から」____。
そして佳奈の口から語られる、母親の介護の裏に見え隠れする邪悪な「ナニカ」の存在。いっそ「サユリ」みたいに婆ちゃん覚醒して一緒に闘ってくれないかな……なんて希望も虚しく佳奈の恐怖体験を我々も追体験するかのような、誰も知らない当事者の「佳奈の視点」だからこそわかる真実、、、、いや待って。それってお姉ちゃん間違ってるよ?そこへ杏里が異変に気付く。我々の真実も揺らぎ始める。佳奈の話は「本当の出来事」なのだろうか?「介護うつ」の妄想なのではないか…?
「視点」が変わると物語そのものも変わる。佳奈の時は恐ろしく見える母親の顔が、杏里の視点だと表情がどこか柔らかく見える不思議。実は演技を使い分けているわけではなく、どちらも同じ顔。これはつまり誰の視点が見るかによって見え方が変わる、実験的演出をやっているんですよねー。

そして佳奈が「狂い始める」後半がまたすごい。一気に別ジャンル映画へ転移して激しさを増していく怒涛の展開へ。「飽きさせない」工夫が見事に成されている。出演陣の演技の勢いがすごい。佳奈を演じる山下リオ。えプレバトに出てる人?バラエティでしか拝見したことなくって。いやいや“狂気”の顔!?母親を見つめていたら突然“ナニカ”が見えちゃって叫び散らして恐怖乱舞する、あの「間」がもうサイコーでしたね。対する妹の杏里を演じる小川あんの方は冷静に事態を把握しようと努める、我々観客と同じ“正常”側の人間で少し安心、かと思ったのですが……。
そして母親。藤井京子という人が演じているのですが、なんでしょう率直に上手すぎて怖いです。ほかマキタスポーツ演じる精神科医おじさんの滑らかな語り口がやり手の医者感すぎて返って怪しさを感じたり、みんなどこか不安定というか、不穏というか。監督は本作が長編映画デビュー作とは到底思えない才能が爆発している酒井善三。舞台挨拶でもパンフレットにもしきりに酒井監督の前作「カウンセラー」の言及があって、そちらは映画館側からお声がかからなければ再上映はしませんとおっしゃっていて今現在鑑賞する術はないのが残念でならない。そして酒井監督とタッグを組むのが「イシナガキクエを探しています」「飯沼一家に謝罪します」などフェイクドキュメンタリー番組「THQ FICTION」や「行方不明展」など、様々な媒体で「不吉」を世に送り出したテレ東の大森時生プロデューサー。だからここまで高レベルなホラー作品に仕上がったのかと思う反面、これまでのモキュメンタリーとは違う「フィクションと提示した上でのホラー」という、映画という「作り物」の中でホラーを構築する新しいことにチャレンジしている。(ご本人はTV番組の方が性に合っていると仰っていたが…)

本作には手ブレカメラもないし実在する名前や地名なども登場しない。しかし話の途中で佳奈の話していること、見たものは実は違うのでは?先述した事実が揺らぎ始める展開、そして「一度入ったら後は落ちる所まで落ちるしかない」制御不能のジェットコースターのような絶望的な展開。後半唐突に「ん?」となるシーンがあるのだが「どちらにしろバッドエンド」逃れられない地獄の無限ループじゃねえかあああああ!!!性格悪いな〜。なぜあのような作りにしたのか、意図とかQ&Aで聞けば良かったな……。過去手がけたモキュメンタリー番組とどこか通じるものを感じましたねー。
ほかにもQ&Aにも挙がった昼夜問わず現れる「ナニカ」、時に明るい日差しの向こう側に「立って」いるかのように見せる演出。確かにアリ・アスターの「明るいホラー」、とりわけ「ヘレディタリー」に似ている(息吹きかけたり窓ガラス曇ったり明らかじゃね?)監督曰く特別照明にこだわってはいないと仰っておりましたが、この昼夜問わず「いる」のが怖いというか、日常的に「ナニカ」の「視えない影」が、我々の生活圏に伸びているのではないかと感じさせる、「ナニカ」の存在が本作では一切明かされない所も様々な「含み」があって良かったですねぇ。ほかに本作に似ている作品でいうと、ナ・ホンジン監督の「コクソン」とか、「ストレンジャーズ」のブライアン・ベルティノ監督の「ダーク・アンド・ウィケッド」も、確か認知症の母親に怪異が……てかみんなバッドエンドじゃねえか!!
で、その「介護」というテーマから企画がスタートしたかと思いきや、実はこれは後に増やされた要素らしく、本作のはじまりは「家族って本当に安心出来る存在か?」という“揺らぎ”から生まれた作品なんだとか。家族=誰よりも自分の味方でいてくれて誰よりも安心出来る存在……ではなかったとしたら?揺らぐ信頼。絶対的安心領域が存在しない絶望感。その小さな“隙間”から次第に愛する者への疑心暗鬼、不安感。味方じゃない。「敵視」するかのように態度を豹変していく。

ただの偶然だとしても、それを「呪い」と決定づけ、実の母親を「アンタ」呼びしてしまう恐ろしさ
そのトリガーに介護は確実に含まれるでしょう。当人にとって重くのしかかるもの。当人の心のケアも非常に大事なことだと痛感しました。また「共有精神病性障害」というワードを知っておくと、理解度の助けになるかもしれません。
ビュアーの指摘で「セリフがセリフっぽい」というのは確かに感じました。が、私個人としてはフェイクドキュメンタリーでない作品で、むしろ小説の一節のような、多少説明的でも練りに練られた心に響くフレーズ、例えの母を“口が動く貯金箱”のようだと例えたり、精神科医が孤児の少女に話す話とか。(マキタスポーツの独特の「間」も相まって実に心地よいセリフだった)妹が姉の核心を突くセリフとかも、ひとつひとつのセリフがよかったんだよねー。
「災」はメジャー作品、対する本作はインディーズ、予算も規模もまるで劣っている作品ながら、しかしやや抽象的だった「災」より本作の方が格段にわかりやすく(酒井監督曰く気取ったアート的作品にはしたくなかったとのこと)そういう意味で言えば、本作の方がむしろ万人向けかもしれない。ちょっとこれは拡大上映して欲しい、かなりオヌヌメしたい1本。必見です!




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