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オッペンハイマー(2023)



【原題】Oppenheimer

【監督】クリストファー・ノーラン

【出演】キリアン・マーフィー エミリー・ブラント マット・デイモンほか

【あらすじ】

第2次世界大戦中、才能にあふれた物理学者のロバート・オッペンハイマーは、核開発を急ぐ米政府のマンハッタン計画において、原爆開発プロジェクトの委員長に任命される。しかし、実験で原爆の威力を目の当たりにし、さらにはそれが実戦で投下され、恐るべき大量破壊兵器を生み出したことに衝撃を受けたオッペンハイマーは、戦後、さらなる威力をもった水素爆弾の開発に反対するようになるが……。(映画.COMより)






 
【感想(ネタバレなし)】

『“向き合わない”逃げ道を作らない__。』

 





どーもどーもラーチャえだまめです。早速ですが本日はコチラの映画を拝見させて頂きました。



【オッペンハイマー】___。先日ついにグラシネ池袋のIMAXで見て参りました。これはもう絶対に、絶対に日本一のIMAXで喰らってやろうと腹を決めておりました。我らがクリストファー・ノーラン監督の4年ぶりの新作。今年の第96回アカデミー賞で作品賞、監督賞ほか6つの部門で受賞。これまで世界から圧倒的な支持を受けてきたノーランの作品がノミネート止まりだったアカデミーで今回初の快挙となったわけですが、“当たり前過ぎてもう驚きもしない”ファンの間ではそりゃそうだよな。と誰もが納得したことでしょう。新作を作る毎に、観客が“100”期待すれば“200”で返してくる人ですから。まさに「幸せのイタチごっこ」が今年も堪能出来てしまう……しかし去年世界で公開されるも日本では公開されるか長らく“未定”の時期がありました。本作は“原爆の父”で知られる理論物理学者ロバート・オッペンハイマーの伝記映画。原爆被害国の日本での公開は難しい問題でした。製作はユニバーサルで、ユニバーサル系の映画は日本での配給権は東映東和が持っているのですが、本作の上映に踏み切らなかったのです。故に配給会社が未定のままこのまま日本未公開も視野に入れておりましたが、「半地下」で知られるビターズ・エンドという日本の配給会社が配給権を獲得。同社として初のIMAX作品としてミニシアターではなく“シネコン”での上映に踏み切ったのです。



とにもかくにも「観なければわからない。」そう思い今回は少し身構えて鑑賞したのですが













頭がグワングワンして頭蓋骨割れる衝撃。






 

究極の会話“劇”




本作はバットケイブなアメコミ映画でもSFタイムサスペンスでもない、実在したある一人の天才科学者の「伝記」映画である。終始ひたすら「会話劇」が展開され、しかもその会話の殆どが難解な物理学と歴史的ワードで埋め尽くされる。これを並のフィルムメイカーが作れば開始早々にして完全に視聴者を「わかる人とそうではない人」に二分して、後者は理解できない世界観に打ちのめされ座席を立つ羽目になるのも時間の問題であろう。しかし「そうならない」ところが、このクリストファー・ノーランという「天才」が成せる技なのか



本作の会話劇は、その全てが会話「激」なのだから全く退屈する術がない。今作は非常に「激しい」映画です。見終わった後の疲労感は単に上映時間だけが問題ではない。ただそれはウラを返せば、非常に難解なのにそれだけ映画に集中してしまうという意味でもある。

観客は映画が始まった瞬間からまるで首根っこを掴まれるが如く“退出”という自由を奪われ、この会話「激」に身を投じていくことになる。これを「没入」というわけだが、これに“IMAXカメラ”が一役も二役も買っているということは言わずもがな、そして本編“開始直後からもう既にクライマックス感”が漂い、おいおいこれから3時間ずっとこのぶっ飛び調子で進んでいくんか……?と不安視する人もいるであろう。残念ながら3時間「ずっとこの調子で進んでいく。」だがその3時間の間でルドウィグ・ゴランソンのサントラは途絶えることなく、ホイテ・ヴァン・ホイテマの撮った映像美も永遠に終わらない。そしてその映像にノーラン・オールスター感謝祭とも言うべき“多数の豪華すぎるキャスト”が3時間ずっと彩りを飾るのである。こんな贅沢な3時間があるだろうか___。





 

究極の“音”体験




ノーラン映画はある意味“音”映画である。それだけ彼の作品にとって劇中流れるサントラは作品の生命線と言ってもいい。そんな今作の大役を任されたのが、映画作曲家としては“若手”でありながら「テネット」で楽曲を担当したルドウィグ・ゴランソン。それまで長年ノーラン作品の楽曲を担当してきたハンス・ジマーに代わり(彼の推薦もあり)「テネット」で作曲家が変わったことは吉と出るか凶と出るか不安でしたが、結果劇中流れる音楽を聴き一瞬でその不安が解消された記憶が懐かしい。その彼が続く2作目で「完全にノーラン作品をものにしている」かのようなバツグンの安定感。ノーランの作る映像世界の“凄み”を「最大限に引き上げる」サントラがとにかく素晴らしすぎました。それが終始ずっと流れるのです。本作はまさに“ゴランソン大演奏会”と言っても過言ではありません。





 

究極の“映像”体験












素粒子の視覚化とかアントマンでも無理だわ





嗚呼耳鼻科の神よ、今作も安定のノーランの“CGアレルギー”が大爆発してしまっている(汗)今度は核爆発シーンをノーCGで撮ってみせよ!という無理ゲーなお台を?撮影監督ホイテ・ヴァン・ホイテマと特殊効果担当のスコット・フィッシャー、アンドリュー・ジャクソン(共に「テネット」で特殊効果賞を受賞したコンビ)がななんなと今回見事に達成してしまいました……が本作パンフレットにも記載がない“詳しい撮影方法はシークレット”という!?一部メディアでホントに核を作ったんじゃないか疑惑さえ飛び出すも当然本人は否定(当たり前だわ)でもそれくらい本当にどうやってこれ撮ったの!?と疑うのはもうよしましょうよ……“どうせ聞いてもわからない”んだからさ!?“実物史上主義”はセットに至ってもそう。本作に登場する実験施設や自然は全て実際にあるか“なければ全て作りました”というノーラン節に相変わらず脱糞、あいや脱帽です。












モノクロのIMAXカメラがない?「なら作ればいい。」

  




 

オッペンハイマーという男




本作がノーラン史上最も“人物特化”型映画であることは周知の事実だが、オッペンハーマー(※以下オッピー)という一人の“ニンゲン”を描くにあたり、特質すべきは“異なる視点”から彼の中身を描いている所である。ノーランが執筆した脚本は“一人称”で書かれていたらしいが、本作はオッピーの“主観”だけで語られてはいない。時に“カラーとモノクロ”を使い分け(前者がオッピーがソ連スパイ容疑にかけられた聴聞会シーン(1954)と後者はロバート・ダウニー・Jr演じるルイス・ストローズの上院での商務長官任命に関する公聴会(1959)シーン)さらにノーランの18番「時系列ぐ〜るぐる」で原爆投下前のオッピーが大躍進した時代と、投下後の時代を交互に見せることで皮肉さも効かせている。オッピーという人物を様々な角度から見せることで観客が感情的に、一方的な視点にならずに“冷静”にオッピーを見つめることに“仕向けている”。だから本作は彼が正しいか、間違っているかというジャッジもしていない。そしてそれは観客の目を通しても同じこと。彼が正しいか、間違っていたのか、英雄か罪人か___ただ我々は彼が“作った世界”の上に生きている。これだけは変えがたい事実で受け入れなければならないことなのです。



オッピーの発明は、はじめは科学オタクの「個人的」な「知的興味」の結晶でしかなかった。それが「知的興味」の「欲」に手を伸ばし過ぎた結果、逆に発明自体は彼の手から離れていき、いつしか「明日の世界を変えてしまう」脅威に「転用」されてしまう。「科学者は科学のうえでは非常に強大な存在でも、政治のうえでは全く非力な存在である。」これこそが本作のテーマではなかろうか。それがわかるのは、スクリーンの外にいて彼を“冷静”に傍観する視聴者であり、本作の最も正しい“見方”だと思うのです。そして冷静に観るという姿勢は、日本人であっても変わらないと思うのです。





 

日本人はこれをどう観ればいいのか




避けては通れない日本との関連性。本作は原爆を作った男の物語であり原爆を“使った”男の話ではない。よってそのあたりはオブラート、いやオッピー自身も“第三者”の視点でしか“知らない”=観客に“見せない”という手法をとっている。それが見た人の中には今まで彼の視点で語られていたのにそこだけ突然「知らない」とシラを切るようで納得がいかない、という意見もあるかもしれない。確かに私もそこは“スマート”に描いてほしくはなかった。しかし本作は「アメリカ映画」。アメリカ人の中には「日本に原爆が落とされたから戦争終結が早まった」とか「犠牲が少なくすんだ」と考える人も少なくないと聞く。まるで日本に原爆が落とされたことが「必要な犠牲」だったかのように。実際本作にもそのようなシーンが登場する。



ただ敢えてマイルドな表現にしたことで、世界規模の鑑賞のハードルを下げたとは言えないだろうか?日本人にはあれでも被爆の悲惨さは充分に伝わるし、記憶に焼き付けるような強烈なシーンを入れたところで、返って拒否反応を起こし鑑賞しないという「逃げ道」を作り出してしまうことこそが、最も“あってはならない”表現なんじゃないか?



日本に原爆が落とされた後、“原爆の父”は民衆の中で“神格化”されていく。だが彼の「声」が民衆に届くことはないのである___。







↓↓↓ここからネタバレあります↓↓↓

 
【感想(ネタバレ)】







長らくスクリーンから離れていたジョシュ・ハートネットが“イイ感じにオケオジ”になってて、これはまたファンが急増すること間違いなしか!?本作随一の色男っぷりでしたね。火星と氷の惑星に取り残され現在リーチのマット・デイモン演じるグローヴス将校の切れ味バツグンのジャックナイフ感でちょっとでも余計なこと言ったら地面に埋められるんじゃないかってくらいヒヤヒヤしちゃう危険で非情な男っぷりもあり、誰よりも早くオッピーの才能を見極め、そして信じた男でもある、この絶妙な“ライン”ですよ……友人とも違うんだよなー。だって“信頼はするが同情はしない”んだもの。まさに軍人。そして今作もお馴染みの“ノーラン組”の顔ぶれよろしく、今作で悲願の“主役”を務めたキリアン・マーフィーやケネス・ブラナー、ケイシー・アフレックにマシュー・モディーンそしてトルーマン大統領にノンクレジットのゲイリー・オールドマン……「嫌われるのは原爆を作った男じゃなくて、使った男だよ。」だからなーにお前が罪悪感感じちゃってんの?憎たらしいヤツだけどある意味客観的に見ていて、間違っちゃいない。でもあとはほぼ新規キャスティング……ただ“数が多すぎる。”ボヘミアン俳優ラミ・マレックにジュマンジ俳優アレックス・ウルフの実に贅沢な使い方よ……(汗)ほか「ボーイズ」のジャック・クエイトなんかほぼ太鼓叩いてるイメージしかないしモブキャラでもいいからみんな出たかったんやろな……





あとはもう後半の聴聞会シーンが完全に












「ファイティン」しちゃってんだよね





ここではオッピーとそういえば最近何してんだ俳優ジェイソン・クラークとのやり取りが特に熱い。実は裏で糸を引いていたのがロバート・ダウニー・Jrのストローズだったわけだが、単に12年前の逆恨みだけでオッピーを没落させようとしたわけじゃないんですよね。彼もまた独自の“正義”を振りかざしたに過ぎず、オッピーがまたヤバい兵器を生み出す前に潰しにゃあかんやろがい、という信念もあったわけです。まぁそれでも劇中彼は良いようには描かれてませんでしたが…。

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