8番出口(2025)
- ラーチャえだまめ

- 9月20日
- 読了時間: 9分

【原題】8番出口
【監督】川村元気
【出演】二宮和也 河内大和 浅沼成ほか
【あらすじ】
蛍光灯が灯る無機質な白い地下通路を、ひとりの男が静かに歩いていく。いつまで経っても出口にたどり着くことができず、何度もすれ違うスーツ姿の男に違和感を覚え、自分が同じ通路を繰り返し歩いていることに気づく。そして男は、壁に掲示された奇妙な「ご案内」を見つける。「異変を見逃さないこと」「異変を見つけたら、すぐに引き返すこと」「異変が見つからなかったら、引き返さないこと」「8番出口から、外に出ること」。男は突如として迷い込んだ無限回廊から抜け出すべく、8番出口を求めて異変を探すが……。(映画.COMより)
【感想(ネタバエレなし)】

『◯◯になる話でない。』
どーもどーも毎朝死んだような目で通勤するラーチャえだまめです。本日はそんなやっとこさ死んだ目で流行に乗車することができた
【8番出口】!!!8月末公開ながら未だ劇場を埋め尽くすロングランヒットを飛ばすコチラ。公開から徐々に口コミで話題になったフシもありつつ正直“まずは様子見”とあえてスルーした方も多いのではないでしょうか??私もその一人でしばらく様子を伺っていたのですが、むしろ初回公開時より座席の埋まり具合がエグすぎて、最近劇場でスシロー詰め状態で見るのはもう疲れるから遠慮して……気がついたらこんなに経っていただなんて(汗)今回空いてる劇場を見つけて拝見させて頂いたのですが、あのインディーズゲーですよ?私もプレイしたことはないけど動画配信者がこぞって挙げたプレイ動画を見た一人。あのゲームをはじめ映画化と聞いた時は、きっと誰もがただの「人気タイトルの乗っかり商法」だと思ったことでしょう!?あのストーリー性皆無の間違い探しゲームはあまりにも「映像化に向いていない」と。しかも主演は二宮和也ときた。これもゲーマーだから?日本を代表する俳優がなんでこんな映画に……と疑問しか抱かなかった。それが見てどうだい

「こんなに映画向き」な作品だったのかよ
ストーリー性皆無の無機質な作品に、まあよくぞここまで「物語」をつけたもんだと感心してしまいました!?しかも完全に作品とは無関係の後付け設定なのに原作ゲームの世界観を残しつつちゃんと意味を持たせているのが凄いとしか言いようがない。そのストーリーはネタバレになるのでほとんど話せないんだけども(汗)まだまだこれから観に行く予定の方もいらっしゃるかと思うのでここでは伏せさせて頂きますが____

しかもカンヌ映画祭に出展……ってのも、いやむしろ「海外向き」の映画だよコレ絶対!!と見る前と見た後で全く感想が変わったというか、めちゃくちゃ「海外作品」みたいな作り方してるんですよ。いい意味で邦画“らしさ”がない。規則的に組み立てられたワンシチュエーションものでパッと思い出したのはスペインの風刺作「プラット・フォーム」、あとはベタになるけど日本でも何故かリメイクされた「キューブ」。あれに非常によく似ている。普段邦画を見ない人にこそ内容にスッと入っていきやすい、そんな映画だと感じましたねー。そのうち韓国とかでリメイクされそう(リメイクしても絵的にほぼ同じになるか?)
てか「あの駅どこ?」エンドクレジットにもデカデカと「東京メトロ」!!とロゴが出るそう本作は“東京メトロ全面協力”のもとで、実際に撮影に使われた駅を知りたくなったのですが……原作では東京メトロの「清澄白河駅を“モデル”としており〜」となるが、実際には複数の駅を組み合わせたオリジナルデザインのようで、本作もおそらくスタジオで撮影されたと思われます。じゃなきゃあんなことやこんなこと……クライマックスのシーンとか絶対撮れないよね(汗)撮影方法が面白くて、“インフィニティ”に続く地下通路をワンショットではないけど“編集点”が見えなくて、これどうやって撮影しているんだろう?メイキングがめっちゃ気になる。

また序盤の主観ショットしかり、時にお化け屋敷にしてジェットコースター並みの「異変」が起こったりテーマ曲がクラシックの「ボレロ」でサウンド的にも立派な「劇場案件」に仕上げている。しかも劇中の「異変」を全て見つけるまで“リトライ必須”なリピート性までもってんだもん。こりゃあ鬼滅に次いで何百億のおじさん(?)にしようって動きも納得ですよ!?ちなみになぜテーマ曲がラヴェルの「ボレロ」なのかと言うと、曲調の同じ旋律を繰り返す=毎日同じ電車に揺られ同じ日々を生きる主人公=間違いを見つけなければ無限ループの8番出口の世界観にかけてるんだよね。その主人公を演じる二宮和也くんが42歳になってもパーカージャケット姿の冴えない20代中盤くらいにしか見えないのが一番の「異変」だよおおー!?サラリーマンの“歩く男”を演じた「VIVANT」の河内大和という俳優さんも次の「侍タイムストリッパー」の山口馬木也並に売れっ子さんになりそうな予感。小松菜奈も半分以上電話越しの声だけなのになんだあの透明感はぁー!?ほかにもメディア戦略等、色々「これは“売れるように出来ている”」というのがもう納得というか??本作は令和邦画の“ヒットの法則”が詰められた、そんな映画だと思いました。
【感想(ネタバレ)】
SNSではあの“歩く男”が実は主人公の父親説まで囁かれているとか面白いですね〜。これ一見すると二宮演じる主人公が「父親になるまでの決心」を描いているようにも見えるんだけど実は違うんですよね。別れ話の最中に小松菜奈演じる恋人が妊娠して、子どもの為に彼女とやり直して父親になる?でも自分には父親の素質なんてないんじゃないか、そうやってもがき苦しむ話ではあるのだけれど「父親になる勇気を得る話」ではない。ここがミソなのです。

最近「ピースメイカー」シーズン2見てたり個人的に色々あって「人生の正解ってなんだろう」って思うことがあって、これがそっくりそのまま海辺のシーンの主人公のセリフなんですけど……父親になる人生とならなかった人生、どちらが正しくて正解なのかはわからない。けど大事なのは、どちらを選択したにせよ「選んだ道を後悔するなよ」って話なのです。その根拠としてラストの感じだとほぼほぼ「そして父になる」っぽかったけど、どちらを選択したのか曖昧にして終わらせていますよね。それに別に「父親にならない」という選択肢があっていい。育てる気がないのに無理やり父親になってネグレクトするなら別れた方がむしろ正解なパターンもあるし。まあまずは第一に「無計画に子ども作んなし」って話なんですけどね?
そしてこの主人公の選択と被るのが冒頭とラストでループする「満員電車のシーン」。あれは主人公が子育てにネガティブな感情を抱いているのがわかるシーンの他に、周りの誰も(自分も含めて)母親を助けようとしない……いやここでちょっと「待て」と。あの泣きじゃくる赤ちゃんにブチ切れて怒鳴り散らかすサラリーマンだけが「完全に悪」なのか?個人的にはですよ、あのサラリーマンの気持ちもわかる。単に目の前で泣かれてうるさいだけだけど、それじゃただの器の小さい人間って思われたくないからもっともらしい理由言っただけかもしれんが、ボソっと「子どもが可哀想だろ」って言ってるんですよ。あの一言でまず満員電車に幼い赤ちゃん乗せる母親もどうよ?と思っちゃったんです。そりゃ急に病院とか?タクシー拾えなくてやむなしで満員電車以外の選択肢がなかっただけかもしれませんが。ちょっと常識ないよな?だから私はあのサラリーマン「だけ」が悪だとは全く思っていなくて。

サラリーマンを注意するのが正解か?赤ちゃんを抱いた母親を電車から降ろすのが正解か?正直これも「どちらが正解か」100対0ではないと思うのです。どちらが正解かはわからない。けどどちらか選ぶことに意味がある。主人公が最後にどちらを選んだかもわかりません。けどちゃんと選択という行動に移しただけ彼は一歩成長したことだけは確かです。話を戻すとではあの場の一番の悪は誰か。「そもそもその選択すらしない人たち」が一番の悪なのです。それは周りにいるしらぬ存ぜぬの「見て見ぬフリ」をする乗客たちのことで、主人公もはじめはそうでした。この「見て見ぬフリ」はそのまま主人公が彼女が妊娠したという「事実から目を背ける」ことにも当てはまります。現実から、選択から逃げること。それこそが一番の悪であり、だから主人公は8番出口に取り込まれてしまったのではないか。
だから本作は「主人公が父親になる話ではない」のです。父親になる=必ずしも正解とは実は言っていないから。ただ主人公がラストに父親になる選択をしたように見せたり、本作の正解が「父親になること」と誤解を招くような見せ方をしているのが気になってしまって。いやむしろそうだとしたらちょっとステレオタイプな映画だなと。またはサラリーマンを注意することが映画的な答えだと言うならば。あとは主人公の喘息。あれは二宮くんのアイデア(本作に脚本協力として参加)みたいだけど、あれは明らかに「喘息持ち=ひ弱」と決めつけてはいないだろうか?

「子どもができたら父親になるべきだ。」とか「赤ちゃんなんだから泣かれても我慢すべきだ。」とか「◯◯すべき」という日本人が好きな決めつけ思考に落とし込んでいるとしたら、途端に本作が安っぽくなってしまうというか。日本のみならず世界中で良くも悪くも多様性を尊重する時代で、日本は良くも悪くも発展が遅い、生真面目なあまり周りと比べ「◯◯であるべき」みたいな決めつけ思考に囚われやすい民族というか。正解は一つしかない、それ以外は認めないみたいな考え方に固執する感じ?もし観客にそのような一方だけが正解でもう一方は間違い、みたいに言っているとしたら、斬新な映画として新しいことをやっているようで、中身は非常に昭和オヤジレベルの古臭い映画になる。製作者の意図はわからないけど、悪い意味でどちらとも取れる演出がちょっと気になりました。まぁ日本人ウケするために“あえて”答えを一つに絞ったという見方もできますけど……。
さあさあ本作の大ヒットを受け「大ヒットインディーズゲームの実写映画化は売れる」の方程式が出来たがあために!?早くも来年チラズアートのホラーゲーム「深夜コンビニ」の実写映画化が発表されましたねー。(そのままチラズアート作品のオムニバスホラーでいいでしょ?)監督は「きさらぎ駅」の永江二朗……これは期待できそうだぞ!?(意味深)




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